こんにちは。
私は剣道ブロガーのKENDO KAWANOと申します。
脱サラして剣道ブロガー兼YouTuber(現在準備中)に転身しました。
詳しくはプロフィールをご覧ください。
今回は、
「剣道とアフターコロナ」
について、取り上げていきます。
剣道具職人のいる店 剣道防具工房「源」
剣道とアフターコロナ
2020年に新型コロナウィルス感染症が世界中で猛威を振るいました。この記事を書いている5月現在もまだ収束には至っていません。
剣道家にとっても、普段行っている剣道の対人稽古を自粛するという事態が長引くなど多くの影響が出てきています。
中でもとりわけ大きな影響を受けているのが、各地で開催される剣道大会です。対人稽古の自粛は、もちろんのこと剣道大会の自粛を意味しており、各種大会は軒並み中止に追い込まれています。私自身剣道大会を主催している立場にあり(冬場の大会のため現時点で開催の可否がどうなるかはわかりませんが)、各種大会を催されている方々や、出場予定だった選手の気持ちを考えると胸が苦しくなります。
しかし、剣道全体のことを考えて未来を見据えた視点からは、ずっと頭を下げて落ち込んでいるばかりではいけないような気もしています。そこで今回は、この緊急事態がある程度落ち着いて、対人稽古を十分に行えるようになった後、つまりアフターコロナの剣道界について希望的観測をもとに解説していきます。
項目は2つです。
・極度の試合主義からの脱却
・剣先の重要性の再認識
順に解説します。
極度の試合主義からの脱却
先ほども書きましたが、私はある剣道大会を運営しております。その立場でありながら「試合主義からの脱却」とは矛盾があるのでは?という指摘があるかもしれません。確かにそういう考え方もあるかもしれまんせんが、私がここで言いたいことは、言い換えれば「極度の勝利至上主義からの脱却」です。
「試合をすることがいけないのではなくて、試合の勝敗に依存する剣道家の精神のあり方がいけない」という論点です。
前の記事にも書きましたが、私の学生時代に剣道の乱れを憂いた恩師が「試合を2年間禁止すべきだ」とおっしゃっていました(恩師は全日本剣道連盟の元副会長であり剣道界のしかるべき立場の方からの発言としてこのように述べられておりました)。ただし、現実的な問題としてそれを実現できるかと言えば絶対に不可能です。よってそのような考えを持つ有識者や高段者の方がいくらおられようとも今まで試合が全国的に中止になったり廃止になったりしたことは一度もないのです。
想像してみるに、剣道から試合がなくなればどうなるかというと、確かに剣道の質が高くなる未来が予想されます。証拠として、特に剣道の乱れが顕著であるとされる学生年代の剣道家と地稽古をすると、驚くべきことに「剣道が汚い」とか「ずるい」と感じることは非常に少ないです。つまり、彼らはいわゆる「正しい剣道」をやろうと思えばできるのです。しかし試合となると全く状況が異なります。試合では「勝ったら優勝」や「勝ったら全国大会」などの純粋な剣道修行以外の付加価値が上乗せされることで、多少こしゃくな技やずるい行為をしてでも「勝ちにこだわる」姿勢が前面に出てしまいます。裏を返せば、試合がなくなりさえすれば、こしゃくな技やずるい行為は必然的に消え去り自然と剣道が良くなるということが考えられるのです。
このように、「剣道から試合を取ることは不可能だが、試合がなくなれば剣道は良くなる」というなぞなぞのような問題が近年の剣道界には存在していました。そして今、図らずも剣道界では絶対に実現するはずのないことが起こっている状況にあるのです。決して喜ぶべきことではありませんが、新型コロナウィルス感染症の影響により、日本全国津々浦々一切の剣道大会は中止に追い込まれています。惜しむらくは、対人稽古ができる環境が望ましかったのは間違いありませんが大会を中止して稽古を継続しては意味がありませんのでそれはしょうがありません。
しかし現実として全国の剣道大会がこれだけ長期間にわたって停止している事態を、我々剣道家は悲しんでいるばかりではいけません。もちろん、中止になった様々な大会に賭けていた選手の気持ちは察するに余りあるものですが、我々はいつまでも下を向いているわけにはいきません。
この機会をチャンスと捉えて剣道界がよくなるきっかけとしなければなりません。
若者から高齢者まで、そして選手であれ指導者であれ、それぞれの立場からもう一度剣道をする意味や剣道の伝統文化としての成り立ちについて考えてみる必要があります。
選手の目線からは、「勝つために剣道から逸脱した行為がなかったか」という反省、指導者からは「選手に正しい剣道をさせるための日頃の指導が適切であったか、また自分の剣道観が勝利至上主義に陥っていないか」などの反省を皆がしていくことによってこの出来事の収束後の剣道のあり方を変えていく必要があります。
とはいえ、これはあくまでもそうなってほしいという私の願望であり、現実はそう甘くないことも分かっています。人間は変革を嫌う生き物です。今までの習慣ややり方、成功体験から180度意識を変えて違うベクトルの剣道を求めていくということを果たしてどれだけの人ができるだろうかと考えれば極めて厳しいと考えざるを得ません。特に学生剣道などでいえば、やはりトップダウンというか強豪校と言われるこれまで多くの栄光を勝ち取ってきた学校から変わっていかなければ変革は容易ではないと思います。しかし先ほど書いたように、成功を重ねれば重ねるほど「変化」は難しいものです。
これを解決するためには、ある程度の組織力をもって対応する必要があると思います。そのための組織とは、主に「中体連剣道専門部」・「高体連剣道専門部」・「全日本剣道連盟」などが想定されます(もちろんすべての剣道団体が関連します)。これらの組織がルール的な縛りを設けるべきだと考えます(今までも努力はしてきていますが)。大きな変革は議論を呼び、反発を呼び、なかなか上手くはいきませんが、このような事態だからこそ、大きく変革するチャンスはあるのではないかと考えます。
私は現在の全国的な剣道休止期間を契機にして、剣道家それぞれの意識の変化と関係各組織による適正化によって「極度の試合主義(こしゃくな技やずるい行為をしてでも勝つという意識)」を変革することができる可能性はあると思っています。もちろん簡単なことではありませんが私たちが、まずは後世に残したい日本の伝統文化としてのあり方について、活発に意見が交わされるようになることを望みます。
剣先の重要性の再認識
2020年5月現在、新型コロナウィルスの影響で剣道の大会や対人稽古ができない状況になっています。私はこの出来事が収束した後、剣道界では「剣先の重要性」が再認識されるようになると考えています。
現在剣道の対人稽古ができない理由は、剣道はいわゆる「3密(密接・密集・密閉)」状態に陥りやすいスポーツだからです。なかでも人と人との距離が極限まで近くなって密着する瞬間があります。それは「鍔迫り合い」の瞬間です。
ここまで来たら大体察しがつくかもしれませんが、私が思うに剣道再開後の対人稽古において「鍔迫り合い」は当面控えるべきではないかと思うのです。
なんなら、先ほどの項で「新しいルール」のことを取り上げましたが、感染症対策の一環として「鍔迫り合い禁止ルール」を全剣連ないし他の剣道団体が作っても良いのではないかとさえ思います。
ルール的なことは我々一般人がどうのこうの言っても仕方のない話なので、稽古の話に戻します。特に学生剣道では長きにわたって鍔迫り合いからの引き技が隆盛を極めています。引き技を狙おうとするために、不自然な防御姿勢(いわゆる三所隠し)が発生して、すぐにお互いが引っ付いて鍔迫り合いになってしまう。そしてそれが剣道の乱れにつながっていると言われています。要するに、「剣先の攻防」をとばして鍔迫り合いに突入していたのが従来の学生剣道です(あくまで極端にいえばの話です)。
ところが、感染症対策で鍔迫り合いを控える稽古になれば状況は変わるはずです。引き技はあまり狙えないだけでなく、鍔迫り合いに持ち込むための防御姿勢をする必要もなくなります。そして、最終的に「剣先の攻防」を重要視するようになるはずです。これまで考えられてこなかった、「相手の剣先をどう崩すか」・「相手の心をどう崩すか」といった剣道の本来の醍醐味であり探求するべき原点に戻ることになるのです。
指導者の側も、これまでと違った稽古を考えるようになるでしょう。例えば私が高校生を指導するとしたら、「なるべく相手との接触が少なく、なおかつ試合に通用する技」の稽古を何とか編み出したいと思うでしょう。人間は変革を嫌う生き物と書きましたが、必要に迫られたときに驚くようなアイデアや力を発揮する生き物でもあります。必然的に、「剣先の攻防」に重点をおいた独自の稽古内容を各学校あるいは各団体が考え工夫するようになると思います。
こういった理由から、新型コロナウィルス感染症収束後の剣道界においては「剣先の重要性」が再認識されることになると考えます。これももちろん私の希望を込めた観測であり、ふたを開けてみたらまったく元通りになるだけかもしれません。しかし、少数でも変革を起こそうとする人が現れてそれがメジャーになっていくことを望みますし、剣道の素晴らしい未来のためには必要なことなのではないかと考えます。
少なくとも、私は今後そのように剣道と向き合ったいきたいと考えています。
まとめ
今回は、
「剣道とアフターコロナ」
について解説しました。
ポイントは、「極度の試合主義からの脱却」「剣先の重要性の再認識」となります。
剣道ができない我々は今苦境に立たされています。大事な大会が中止になった選手たちの心は傷ついています。しかし、そんな時だからこそ剣道の未来について論じていく必要もあるのではないでしょうか。むしろ、今しかできない議論があると思います。今回はそのようなイチ剣道家としての思いを記事にしてみました。
最後まで読んでいただきありがとうございます。次回もお楽しみに。
それでは。
剣道具職人のいる店 剣道防具工房「源」
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